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IT業界における精神疾患の労災対策【1/1】

2014年1月16日 15:31IT業界の裁判判例集

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厚生労働省の公表している「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」の平成24年度版 を見ると、情報通信業については、精神障害に関して労災補償が請求された件数は66件であった。全体の件数からしてダントツに多いというわけではないが、暗数も考慮すれば、「IT業界においてはうつ病が多い」という認識を社会が持つには十分な数字であろう。そうすると、IT業界としては、やはり精神疾患の問題に取り組む必要がある。

しかし、一体どのような場合にうつ病が労働災害と認定されるのであろうか。そして、IT業界に関わる我々はどのような対応をすべきなのであろうか。


 

1 労災認定の基準

精神障害は、外部からの心理的負荷(仕事上のストレスや私生活上のス卜レス)と、そのス卜レスへの個人の対応力の強さとの相関関係で発病に至ると考えられている。そして、発病した精神障害が労災と認定されるのは、その発病が仕事による強いス卜レスに起因するものと判断できる場合(これを法律用語で「因果関係がある場合」という)に限られる。しかしながら、仕事によるス卜レスが強くても、同時に私生活上のス卜レスが強かったり、または、その個人の既往症やアルコール依存等が発病に影響したりしている場合には、発病の原因については慎重に判断されることとなる。

以上からすると、精神障害の労災認定を受けるためには3つの基準をクリアする必要がある。

まず1つ目に、認定基準の対象となる精神障害(うつ病等)を発病していることである。これが認められるためには、原則として医師の診断書等が必要となるであろう。

2つ目は、その精神障害の発病前6か月の間に、業務による強いストレスが認められることである。月160時間程度の残業や、業務上の重大な怪我やセクハラなどがある場合には、業務上の強いストレスがあったと認められやすい。また、それ以外の場合についても、具体的に起こった出来事について「業務による心理的負荷評価表」を用いて業務上の発症か否かが判断される。

3つ目に、業務以外のストレスやその人の個人的な要因により発病したとは認められないことが必要となる。これについては「業務以外の心理的負荷評価表」を用いて判断される。

以上の基準について、専門家である医師の意見も考慮して労災認定がなされるわけである。より詳細な基準については、厚生労働省の発表する認定基準を参照するとよいであろう 。

2 あなたが経営者・監督者なら...

従業員が仕事上のストレスでうつ病になったと認められた場合、企業はどのようなリスクを負うのか。

  • ① 法律上のリスク
  • 労働災害が起きた場合には、労働基準法上、原則的には使用者、つまり企業が医療費や休業補償を負担することになっている。しかし、企業から十分な補償を受けることができない可能性もあることから、労働者を保護するため、その補償に対する保険として「労働者災害補償保険法」に基づく労災保険制度が用意されている。企業が労災保険料を支払うことによって、万一労働災害が起きた場合でも、代わりに労災保険から医療費などが補償されるのである。

    しかし、労災保険制度による補償の対象には、精神的損害に対する慰謝料や逸失利益に対する賠償などが含まれておらず、これらも含めた実損害の全ての回復を図るために、従業員が訴訟を提起することもあり得る。判例によれば、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところであり、労働基準法の労働時間制限や労働安全衛生法の健康管理義務(健康配慮義務)は、上記の危険発生防止をも目的とするものと解されるから、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」とされているため、このような義務に企業又は従業員を直接指揮監督する従業員が違反したと判断されれば、企業は賠償の責任を負うことになる。

  • ② 事実上のリスク
  • 一度労災認定がされれば、実情の如何を問わず、労働環境の改善は当然に求められる。また、企業のイメージダウンにも繋がり、今後の経営に支障をきたし得る。更に、その当事者となった従業員のみならず周囲の従業員も転職などで会社を去るという事態も十分に想定でき、会社から人材が流出する結果にもなりかねない。

    これらのリスクを負わないためにも、労働災害の防止を徹底する必要がある。もちろん、労働時間の管理、従業員の健康状態や職場の人間関係への配慮など、基本的な労働環境の整備に努めるべきことは言うまでもない。

    では、これらに加え、IT企業が特に配慮すべき事柄はないか。

    ここで参考になるのが、厚生労働省が公表している「IT業におけるストレス対処への支援」 である。これは、IT業における特徴的な職業性ストレスの状況を挙げ、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づき、企業がいかに対応すべきかを具体的に説明しているものである。

    これは公的機関の提供する資料であり、十分に信頼に値する内容のものであるから、是非目を通して労働災害の防止に努めていただきたい。そして、普段から労働問題の専門家に相談するなどして、労働環境の整備に努めていただければと思う。

    3 あなたが従業員なら...

    もし、従業員としてIT企業に勤めているさなかに精神疾患の兆候を感じたとき、どのように対応すればいいのか。

  • ① 医師に相談する
  • もし自分自身で心身に異常をきたしつつあると感じたときは、当然のことであるが、専門医のいる病院に行くべきである。中には、心療内科や精神科に行くことに抵抗を覚える人もいるかもしれない。しかし、放っておくと症状が悪化する危険もあるし、自ら異変に気づきながらあえて放置することで、本来なら請求できるはずの治療費等が減額されかねないといった法律上のリスクも伴うので、必ず速やかに受診するべきである。

  • ② 上司や企業内カウンセラーに相談する
  • 良識ある上司であれば、自らの病状を説明すれば、有給休暇を承諾してくれたり、業務を軽減するよう努めてくれたりするであろう。もし適切な対応をしてもらえなかったとしても、病状について相談したという事実を残しておくことは、のちのち労災を申請することになった場合には重要な証拠となる。このような観点からは、相談に用いたメール等は残しておくようにすべきである。

    また、企業内カウンセラーなどの専門の相談窓口がある場合には、それを活用すべきである。カウンセラーはプライバシー保護のため守秘義務を負っているから、相談に来た人物についての情報が漏れることはない。

    会社の関係者に対して精神疾患を明かすことには抵抗感があるかもしれないが、勇気をもって相談してもらいたい。

  • ③ 転職する
  • その企業で勤務し続ければ精神疾患を発病することが避けられないと感じた場合には、思い切って転職するのも手であろう。発病すれば労災補償や金銭賠償を受けることができるかもしれないが、一度精神疾患を負ってしまえば一生付き合うことになるかもしれないのであるから、健康には代えられない。

    生活のことも考えるとなかなか難しい問題であるが、決断する勇気が必要なときもあろう。

    以上のとおりであるが、労働環境は企業の努力だけでは整備されえない。そこに勤める従業員一人一人の対応も、精神疾患の外的要因となりうるからである。労働環境の整備について企業と労働者が互いに協力し、労働災害を生まないようにすることが肝要であろう。

    1. http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034xn0.html
    2. 心理的負荷による精神障害の認定基準について
    (http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj-att/2r9852000001z43h.pdf)
    3. https://kokoro.mhlw.go.jp/brochure/worker/files/stresstaisyo22-it.pdf

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