契約しなくても損害賠償義務?契約締結上の過失の理論とシステム開発交渉【1/1】|スキルと市場価値UPに役立つ情報ポータルサイト「キャリア@PRO人(プロジン)」  

契約しなくても損害賠償義務?契約締結上の過失の理論とシステム開発交渉【1/1】

2014年1月16日 16:46IT業界の裁判判例集

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1 契約締結上の過失とは?

「契約締結上の過失」という言葉をご存知だろうか。
一般的に、人や会社が法的責任を負う場合には、①契約を締結した場合と、②法律に責任を負うと定められている場合の2パターンがあるが、契約締結に至っていない段階では①のパターンで責任を生じさせることは通常できない。


 

しかし、契約締結に向けて労力や費用を投じて準備をしていたにもかかわらず、締結の寸前になって突然交渉が破棄されたような場合、正式な契約がないからといって相手方の責任を一切問うことができないというのはいかにも不合理であるから、②のパターンによって法的責任を追及できるような仕組みが必要となる。
そこで考え出されたのが、「契約締結上の過失」という法理である。
この法理は、契約を締結するための交渉の過程で、契約内容に関する重要な事項について情報提供をしなかったり、契約が締結されるだろうと相手方を信頼させておきながらその信頼を理由もなく裏切ったりした場合には、そのような不当な行為によって相手方に生じた損害を賠償しなければならない、というルールを定めたものである。
このようなルールは、法律の条文に直接はっきりと書かれているわけではないが、「他人に理由もなく損害を与えた者は賠償の義務を負う」という大原則を定めた民法第709条(不法行為)を解釈することによって導き出すことができる。

2 システム開発紛争と契約締結上の過失の法理

では、この法理は、システム開発をめぐる紛争においてどのように適用されているのか。
この法理に基づいてベンダーがユーザーに損害賠償を請求した近年の裁判例としては、東京地方裁判所の平成24年1月26日判決がある。
この事件は、ある公的な団体Yが、その業務に用いるシステムを構築する事業者を公募し、幾つかの事業者の中からXを選定したのだが、正式に契約を締結する前に、見積金額に関する意見の不一致などを理由として一方的に契約締結を反故にしたため、事前に進めていた作業が全て無駄になってしまったXが、開発費などの損害の賠償を求めて訴えを提起したというものである。
裁判所は、Yが見積金額への不満を表明することなくXの作業に協力していたことなどから、XにはYとの間で契約が締結されることへの信頼が生じていたとした上で、Yはこの信頼を裏切らないよう配慮する義務を怠ってXに損害を負わせたのであるから、その損害を賠償しなければならないと判断した。
この判決からも分かるように、契約締結に向けた交渉が当事者間で成熟していくにつれて、ある一定の時期以降はもはや一方的に交渉を破棄してはならないという拘束が生まれ、そのような拘束を受けているにもかかわらず交渉を破棄した場合には、損害賠償の責任が生ずることがある。その「一定の時期」がいつであるかは一律には決められず、具体的な当事者の発言や行動をもとに個々の事案ごとに判断する他ないが、この判決においては、Yが公募手続によりXを選定したことや、Yが見積金額への不満を伝えないままXの作業に協力していたことなどが考慮要素とされたものと考えられる。
このような、相手方に契約締結への期待を抱かせておきながら不当に交渉を破棄した場合には法的責任を負うという法理は、最高裁判所の判例においても承認されており、システム開発をめぐる紛争についての裁判で一般的に通用するルールということができよう。

3 システム開発契約の交渉における行動指針

そうすると、システム開発の契約を締結するに際し、交渉の当事者はどのようなことに留意すればよいのだろうか。
一つは、契約締結の見通しに関して相手方に過大な期待を抱かせないようにすることである。
契約締結を目指して交渉を続けている以上、相手方に期待を抱かせないようにすることは難しいかもしれないが、少なくとも、業界内で承認される一般的な駆け引きの範疇を超え、自社に有利な条件を呑ませるために契約締結をちらつかせて期待を煽るような行為に出ることは差し控えるべきであろう。
もう一つは、正当な理由なく交渉を破棄しないことである。
たとえ正式な契約締結はまだ先のことであっても、既に相手方がそれに備えて開発費や設備費などの費用を投下しているという事態は往々にしてある。
社会常識に照らし、相手方が投じた労力や費用を考慮してもなお交渉破棄がやむを得ないといえるような正当な理由が備わっていて初めて、相手方の利益を害するような態様での交渉破棄が法的に是認されるのである。
そのような「正当な理由」の存在が肯定されるには、単に、契約を締結するに当たって障害となるような問題が顕在化したというだけでは足りず、その問題が解決可能なものであるか、解決のためのコストに見合ったベネフィットが期待できるのかなどの点について当事者間で検討し、交渉破棄を避けるため又は相手方の損失を最小限に抑えるよう誠意をもって協議を尽くしたことも必要となると思われる。

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図:契約交渉から締結までにおける相手方の期待度の変化のイメージグラフ
この場合だと、費用の投資の段階頃からは、相手方の期待度は保護に値すべきと思われます。

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