突然の開示請求。プロバイダ責任制限法とは?【1/1】|スキルと市場価値UPに役立つ情報ポータルサイト「キャリア@PRO人(プロジン)」  

突然の開示請求。プロバイダ責任制限法とは?【1/1】

2014年1月16日 17:58IT業界の裁判判例集

突然の開示請求。プロバイダ責任制限法とは?

IT企業のA社は、インターネット上で掲示板サービスを提供している。
A社は、ある日突然、B氏から「Xというハンドルネームで書き込みを行った人物についての情報を開示して欲しい」という内容の書面を送りつけられた。B氏によれば、XはA社の運営する掲示板にB氏の名誉を毀損するような内容の書き込みを行ったのだという。
A社は、顧客であるXの情報を、Xに無断でB氏に提供しても良いのだろうか?


 

1 プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権

B氏の開示請求は、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求というものである。プロバイダ責任制限法(正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」という)は、インターネット上でプライバシーや著作権の侵害があったときに、プロバイダ等が負う損害賠償責任の範囲や、プロバイダ等に対して被害者が権利侵害者についての情報の開示を請求する権利を定めた法律である。
この法律は、インターネット上での名誉棄損・侮辱などの不法行為によって精神的苦痛などの被害を受けた被害者が,その損害を訴訟などで立証するために必要である場合に,プロバイダに対し,不法行為を行った発信者の住所・氏名などの開示を請求できる制度を設けているのである。

2 発信者情報開示手続の概要

被害者からプロバイダに対して発信者情報の開示請求がされると、プロバイダは、開示請求の書面に添付された書類等で請求者の本人確認をした上で、開示の対象とされている発信者に対して、情報開示の可否について意見を聴取する。その後、プロバイダが被害者の主張が法定の要件を満たしているかを判断し、発信者情報の開示の可否を決定して、開示請求してきた被害者に通知することになる。
もっとも、開示請求を受けたからといって、企業は漫然と発信者情報を開示すべきではない。発信者がその企業の顧客である場合に、その個人情報を無断で第三者に伝えることは、個人情報保護の観点から問題のある行為だからである。だからこそ、このような請求を受けた場合には、その請求について正当な理由があるのかを企業は十分に吟味する必要がある。
では、具体的にどのような要件について吟味すべきかを詳しく見て行こう。

3 開示関係役務提供者に当たるのか

まず、開示請求を受けた企業が「開示関係役務提供者」に該当しているかどうかである。
「開示関係役務提供者」とは、上記に例示したように、一般的にはプロバイダ等と考えられている。ここでのプロバイダとは、掲示板の管理者やシスオペなどコンテンツを提供する「コンテンツプロバイダ」を含む。
他方で、インターネット接続を提供するいわゆる「経由プロバイダ」については、ここでいう「プロバイダ」に含まれるかどうか以前は争いがあった。なぜなら、経由プロバイダは,情報通信の媒介を行っているだけで、掲示板等の不特定の閲覧者が受信する電気通信の送信自体には関与していないため,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の始点に位置して送信を行う者」を意味する「特定電気通信役務提供者」には該当しないとの説があったからである。実際上の問題としても、コンテンツプロバイダは発信者の氏名や住所を把握していない場合が多いため、コンテンツプロバイダから情報を得ることは困難であった。それに対して、経由プロバイダはインターネット接続サービスを提供するために発信者と契約を締結しており、住所・氏名等の情報を保有しているため、経由プロバイダに対する発信者情報の開示請求を認める必要性があったのである。
そして、最高裁平成22年3月11日判決は、このような実情も踏まえて、経由プロバイダも「特定電気通信役務提供者」に含まれるとして、開示請求の対象となることを認めた。もっとも、このような判決が出たとしても、経由プロバイダからの情報取得の必要性を基礎づけるために、コンテンツプロバイダへの開示請求が先になされる傾向があるので、一般のIT企業もこの開示請求を受けなくなったわけではないことに留意されたい。

4 権利侵害の明白性はどう判断すべきか

同法が規定する発信者情報の開示を求める要件は、①侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであり、②当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときと認められること、である。
侵害される権利が名誉権である場合には,この要件を満たすには,名誉が毀損されたことに加えて,その書き込みなどの内容や目的が公益的なものとして例外的に違法にならない場合に該当するかどうかについても判断しなくてはならない。
この要件に当てはまるか否かは権利侵害の態様によって異なり、法的知識に乏しければ判断が困難とならざるを得ないので、法律の専門家に相談しつつ検討することが必須であろう。

5 どのような情報を開示すべきか

以上の要件を満たした場合、開示請求を受けたIT企業は発信者情報を開示できるのであるが、発信者についての全ての情報を開示して良いということにはならない。
プロバイダ責任制限法第4条第1項の発信者情報を定める省令は、①発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称、②発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所、③発信者の電子メールアドレス、④侵害情報に係るIPアドレスなどを「発信者情報」と定めている。個人情報保護の観点からは、正当な理由なくこれら以外の情報を提供することは適切でないということになる。

6 対応を誤ったら?

開示請求を受けた場合、企業は自ら開示の可否について判断せざるを得なくなる。では、もしその判断を誤ったらどうなるのか。
このような場合、開示を拒否された請求者は、本来は開示すべき情報を故意又は過失によって開示しなかった違法があるとして、企業を相手どって開示請求の訴えを提起すると同時に、その訴訟で不法行為に基づく損害賠償をも請求することがある。実際、金沢地裁平成24年3月27日判決ではこのような請求がなされているし、前記最高裁判決も、要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合には、企業が損害賠償責任を負うことを認めている。
もちろん、開示を拒否したことに正当な理由があれば訴訟となっても問題はないが、判断を誤れば損害賠償義務まで負わなければならない場合もあるため、企業としては相応の注意をして要件該当性を判断する必要がある。そのためにも、予めプロバイダ責任制限法に対する理解を深めておくことが肝要であろう。

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